iCAREで働くひとが見えるブログ

働くひとと組織の健康を創る

遠隔医療と遠隔産業保健のあり方

iCAREの山田です。

私は、遠隔医療や遠隔診療の専門家でも何でもありません。ただ言えるのは、今の遠隔医療の考え方や議論にちょっと物足りなさを感じているのです。

 

 

遠隔機器を用いた診療の経験

私がiCAREでテキストカウンセリング事業を始めたのは、心療内科で経験したある出来事がきっかけでした。

 

 

30代前半のシングルマザーで、仕事の中でストレスがかかり

いわゆる適応障害という状況になっていました。

状況から軽度の抑うつもあり、お薬を使った方が明らかに早く適応することが出来ると考えたため、本人にお薬での治療を使って、継続的に仕事をしながら徐々に体調を整えていきましょうと伝えたわけです。

 

彼女)私は、お薬を飲みたくありません。お薬はどうしても飲みません。他に方法はないのですか?

 

私)それでは、カウンセリングも効果はあると思いますが、短期的に結果が出るわけではないので、継続的に仕事をしていくとなるとやや心配ではあります。近くのクリニックにカウセリングのできる場所があるので、ご紹介します。

 

彼女)どのくらい料金かかるのですか?1回の時間はどのくらいですか?

 

私)場所によって異なりますが、だいたい月1回が一般的です。1時間前後カウンセラーの方と色々な話をします。自分の考え方の癖など。1万円前後かかると思います。

 

彼女)そんな時間ないし、お金もありません。あと知らない人に診てほしくありません。

 

私)・・・

 

彼女)・・・

 

私)それでは・・・どうしようもないですよね・・・

 

彼女)先生やってください。それもLINEとかで出来ないですか?

 

私)えっ!?

心の声)患者さんとプライベートにLINE交換するのは嫌。でも確かにLINEで認知行動療法で毎日記載すれば良くなる可能性あるな・・・

 

私)それじゃ3週間だけやってみましょう。それ以上は私も負担になるので大変申し訳ありませんが、対応出来ません。こちらに毎日5分程度で良いので、自分が直面した出来事を事実と解釈に分けて書いてください。・・・・・最後は・・・・・です。

 

彼女は、毎日5分程度の内容をLINEで私に送ってきて、私がそれを添削して返すを3週間ほど続けたのです。結果、彼女の記載する内容が明らかに変わっていくのがわかるのです。当然、彼女自身も自分の考え方の癖がわかるようになり、仕事場で起こっていた問題にも自分が違うアプローチをすることでストレスに感じにくくなったというコメントをし始めたのです。

 

この出来事は、臨床医であった私にとっては大きな事件でした。私は、学生時代から問診と身体所見を取って鑑別疾患をあげてというトレーニングをひたすらしてきましたし、沖縄時代でも同様にその知識を現場とすり合わせてきました。

 

結果的に、問診と身体所見と少ない検査をすることで角度高い診断を行い、それに応じた治療方針を立てることが染み付いていました。もちろん、それは医療資源の乏しい離島医療に行ってから大活躍をするのですが。

 

 

 

遠隔医療が日本で普及しない理由

テキストのみでのカウンセリングやアドバイスには対面以上の価値がある可能性を感じた私は、海外での事例や使用する媒体の種類(電話、メール、ビデオ電話)での診療を調べるようになったのです。

 

参考:海外での遠隔医療

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海外遠隔医療

 

アメリカを中心に遠隔医療は、日本よりも進んでいます。もちろん規制や保険制度の違いの中で、コストパフォーマンスを地理的な問題から求める背景もあるのでしょう。

 

 

日本での遠隔診療やオンラインカウンセリングは新型コロナウィルスの影響を受けて一時的な利用の広がりを見せています。多くの患者も多くの医師も、「意外」と遠隔の方が効率的で良かったという印象をもっている方も多いのではないでしょうか。

 

 

ところが、ウィズコロナの時代になっても来年までは徐々に遠隔診療は広がるものの、その後厚生労働省を中心とした診療報酬での縛りを設けることで再度、対面重視となるでしょう。地面至上主義の医師や看護師の多くは、遠隔医療のマイナス点として、医療の質低下という伝家の宝刀を抜いて、対面に戻そうという動きが強くなるでしょう。

 

 

医療の質低下について、私が海外の事例を調べる中でわかったことは、質が低下するかどうかは対象疾患によって異なるというものでした。

www.cochrane.org

 

医療の質低下は、あったとしても一部の領域と考えれば、理由は何か。

 

 

個人的な印象ですが、遠隔医療がすすめない一番の理由は、地域のクリニックを中心とした医療機関の多くにご高齢となった医師がいることや遠隔医療自体が必然的に低単価化になることだと思っています。

 

 

遠隔医療に対応しようとする若手を中心とした都心部の推進派は、結局のところ数の中では少数派です。低単価でシステム導入の必要な遠隔医療は、クリニック収益が悪化することを考えれば消極的になるでしょう。患者さん側のニーズの問題もあるでしょう。

 

 

遠隔医療を悪用する医療機関も出てくることへの懸念など制度の不備を心配もあるかもしれません。ただ医療費がこれだけ莫大になっている中で、これまでの医療のあり方の転換点を迎えていると言って良いと思います。

 

 

ウィズコロナでもそれほど医療の現場で、遠隔が加速的に進むようなイメージはどうしてもまだ得られません。あと3−5年くらいはかかるのでしょうか。既得権益を優先する流れは続くと思われます。

 

 

 

異なる提供価値を知った上で状況に応じて活用

医療の質低下という大きな声だけではなく、新しい技術への抵抗感や低単価診療報酬、制度の悪用などさまざまな理由があって日本全国で浸透しづらいと思っていますが、私は「そもそもの考え方を変える必要がある」とも思っています。

 

 

使う使わないは、「今の対面医療」との比較になります。対面医療の良さもあれば、遠隔医療の良さもあり、それぞれの特徴を考え、組わせによる価値も熟慮した上で、対象疾患へのアプローチ自体もこれまでとは異なる手法で新しく作り直す必要があります。

 

 

対面と遠隔の良さを比較した表です。MECEになっていなくて申し訳ありませんが、遠隔の良さは、「短時間×高頻度」という特徴です。

 

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対面と遠隔での価値の違い

 

 

皆さんの生活にLINEは、情報のやり取りをする上で大きな基盤になっているでしょう。LINEの使い方ってまさに「空いた隙間の時間に頻度高くテキストで情報交換」をしています。対面や電話じゃないからダメだとは、おじいちゃん世代でも言いません。テキストはテキストの良さがあるわけです。また会話する内容によっても使い分けているのです。

 

 

厚生労働省のオンライン診療の発表を見ていると「確定した疾患」に対して治療による失敗が少ないものをオンライン診療として相性が良いという風に考えているようです。

 

禁煙外来など定期的な健康診断等が行われる等により疾病を見落とすリスクが排除されている場合であって、治療 によるリスクが極めて低いものに限っては、患者側の利益 と不利益を十分に勘案した上で、直接の対面診療を組み合 わせないオンライン診療を行うことが許容され得る。

 

本当でしょうか。そもそも治療方針が見えて、リスクが低いのであれば医療機関でフォローする必要はないのであって、今まで意味のない再診をさせていたことになります。過保護な医療提供は、医療への不信と無用なコストだけを生み出します。

 

 

オンライン診療の相性が良いのは、実は「不確定の診断」で「不確定な治療方針」です。不確定の診断内容には、もちろん軽症から重症な疾患があるわけなので、全てで良いと言っているわけではなく、「時間軸」という概念を入れることによって、高頻度でフォローして、情報を蓄積していくことをメリットにするべきだということになります。今までの1ヶ月単位での情報獲得から1週間単位での情報獲得をして、患者方針でのPDCAを高速で回しましょうということになります。

 

 

  【今まで】社会背景・問診・身体所見・検査・診断・治療 × フォロー

    ※ これらすべて対面で情報獲得

     ↓

  【これから】社会背景・問診 × フォロー

    ※ テキスト、音声、画像の組み合わせ

    ※ トライアンドエラーで始めて時間とともに情報を蓄積する 

    ※ 身体所見と検査の情報は、最適なタイミングへズレる

 

 

これはエンジニアの開発手法にも似ているところがあるかもしれません。

ウォータフォール型とアジャイル型との違いも似ているなと思っているところです。

※ トライアンドエラーは、開発にはない手法かもしれません

liginc.co.jp

 

 

 

働く人の健康における遠隔業務支援

そう考えると働く人の健康、産業保健の分野での「遠隔機器の使用による効率化」は、極めて有効だと個人的には思っています。労働者の診断をするために産業医がいるわけではなく、働ける状態かどうかを判断したり、日常の中で業務が健康に影響しないためのアドバイスを保健師がするような場面では「短時間×高頻度」アプローチは、高い効果を生むでしょう。

 

 

既に多くの産業保健の現場では、メール、電話、ビデオ電話を使い分けて実施しています。不確定な状況であるため、速いスピードと高頻度で労働者と連絡(情報の蓄積)を取るわけです。

 

 

2015年9月の厚生労働省基発「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第 66 条の8第1項及び第 66 条の 10 第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」は、長時間労働とストレスチェック制度の面接指導を限定にしたものになっています。

 

 

これ見て??と思いませんか?

長時間労働とストレスチェックのときの面接指導は、一定の基準をクリアすればビデオ電話して良いということなのですが、「健康診断、休職復職、不調者時」のときは入っていないわけです。実際には、やっている産業医や保健師の方は多くいると思っています。 産業保健の分野もまだまだ遅れていると言って良いでしょう。

 

 

ただ医療とは異なり、産業保健分野での遠隔機器の使用はもっと加速すると思われます。法令遵守の問題はあるにせよ、企業と産業医・保健師との契約で定まっていく業務になります。企業はより効率化を求めることは必至です。もちろん業務が紙ではなく、クラウドで一元管理されていることは前提になりますが。

 

 

産業保健での遠隔機器の使い方については、この論文が良いです。よくまとまっています。神田橋先生と大神先生のものですね。

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遠隔機器を用いた労働者の健康管理

 

注意)遠隔の定義には、電話、ビデオ電話、メール、チャットシステム及びその組み合わせが含まれています

 

 

 産業保健も医療も「遠隔」のもつ最大のメリットを考えて仕組み化し、企業や労働者、患者へ還元していく視点こそ重要なのです。顧客ファースト、患者ファーストとはそういうことではないでしょうか。