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私の考えるPersonal Health Record(PHR)の活用

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永井先生、石見先生、長島先生

 

iCAREの山田です。
先日、一般社団法人PHR普及推進協議会フォーラムにパネリストとして登壇し、民間事業者のスタートアップの立場から色々なことを提案しました。その中でも伝えきれていないこともありますので、このブログで共有します。アンケート結果も大好評でした。

※ PHR普及推進協議会は、PHRを活用するために民間事業者へのガイドラインを作成するための機関となります。iCAREはこの協議会の賛助会員です。賛助会員募集中です。

 

 

PHR議論の背景

保険制度が整備されている日本において膨大なデータが存在するが、それを分析解析し、さらなる発展を期待して厚生労働省が中心となって「データヘルス改革」が進められています。大きく4つの分野にわかれており、1.がんゲノム・AI、2.自分のデータを閲覧できる仕組み(PHR)、3.医療・介護現場での情報連携、4.データベースの効果的な利活用(NDB・介護DB)を推進することとなっています。

この中の2番目がまさにPHR: Personal Health Recordを活用して、本人がマイナポータル等に情報を追加、閲覧していくことを国家プロジェクトとして位置付けているのです。

主な工程表も発表されていますので、意外と進んでいることがわかります。

 

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PHRの検討における留意事項

 

PHRの主たる利用目的とは

①個人の日常生活習慣の改善等の健康的な行動の醸成

②効果的・効率的な医療等の提供

③公衆衛生施策や保健事業の実効性向上、災害等の緊急時の利用

④保健医療分野の研究

です。ここ重要なので目に焼き付けておいてください。

 

 

PHRとは?

そもそもPHRってどこまでを指しているのか、医療機関の電子カルテとは違うのかという議論があると思いますので、今回のPHRの位置付けを紹介します。いわゆるPerson Generated Data(人を通じて生み出されるすべての情報)の範囲をカバーするのがPHRとなります。Patient Generated Dataとは、一部(健診等情報)重複するものとなります。Patient Generated Dataとは医療機関・健診機関等で患者を通じて生み出した情報で、電子カルテにあるような情報(EHR)とも重なります。

 

具体的には

  • マイナポータルAPI等を活用して入手可能な自身の健康診断等の個人情報保護法上の要配慮個人情報となる保健医療情報、予防接種歴、乳幼児健診、特定健診、レセプト記載の薬剤情報等
  • 日常的に記録される情報(ライフログ)として、IoTデバイス等で獲得した生体情報、産業保健に関する情報、旅行・行動履歴、学歴等

です。

※2021年3月からは特定健診情報をマイナポータルで閲覧出来るようにすることで、事業主健診情報との共有性を高めるといった動きが既にあります

 

 

ここまでが基本的な情報で、ここからが私の個人的な見解となります。
iCAREを通して予防医療の多くの問題に直面し、長らくその問題を解決する方法を模索してきました。だからこそ今回のPHRについてもやや政策や審議会とは少しズレた考えをもっています。

 

 

 

PHRサービスへの期待と意義

PHRを活用していくことについては全く異論がありません。むしろもっと活用するべきですし、特に行政手続き等のメリットは大きなものだと思っています。もっとインセンティブを働かせて行政手続きをオンライン化して、効率化するべきだと考えます。

 

一方で、問題になるのはこのPHRを活用したサービス(PHRサービス)の提供のあり方です。誰が活用して、誰が提供するのか、ここを最も議論するべき話だと思っています。 誰のためのPHRなのかという議論です。

 

PHRサービスは、個々人や組織、国家という観点で人類の豊かさを追求できるものです。これまでデータを活用しなかったことから起きていた大きな様々な課題が、データを活用して改善や価値提供することが可能になります。健康は人生観、価値観そのものであることからニーズは多種多様であり、センシティブな情報だからこそ未開拓領域だったのです。

 

 

本題に入ります。

PHRは誰の何の課題を解決するのか。

その課題はみんなが怒っているほど大きなものか。

 

そう、この質問に明確に答えられない限りPHR構想はただの机上だけの話し合いで終わってしまうのです。

 

ここで活用主体者として考えられるのは、個人、専門家、企業、国と4つあります。冒頭の厚生労働省の発表には、「個人の日常生活習慣の改善等の健康的な行動の醸成」が一番最初にあり、厚生労働省としても優先的にこれを主たる目的にしたいという意図がにじみ出ています。もちろん、世間体から1つ目にしないといけない配慮があったかはわかりません。

 

さぁ、みなさんどうでしょうか?

本当にPHRがあったらその情報を日常的に活用するでしょうか。医療機関に行った際に使うというイメージはあるかもしれません。大きな国家予算を使ってこれらを活用できる自信がありますか?

 

私は、これまでの経験から考えにくいと思っています。予防医療の最大の特徴は、健康オタクが健康サービスの最大の恩恵を享受することであり、デジタルやアプリでも本質は変わりません。ほんの僅かな参加者が増える程度だと考えています。

 

 

 

予防医療での健康行動の特徴

予防医療での健康行動の特徴は、2つの側面から考える必要があります。

 

1.人間の健康行動3つの特徴

  • 具体的なイメージが出来ないことから自分ごとにならない
  • 理解出来ても自分自身の未来の不利益のための行動は先送りする
  • やりはじめてもいつでも出来ると勘違いして行動が一過性になる

人間の健康行動を典型的に表したのがダイエットだと思います。みなさんもダイエットの経験が少しは経験があると思います。どうですか、上記3つの経験あるでしょう。

 

ダイエットで最も簡単に出来る方法は、毎日の食事の記録と体重計に乗ることです。なぜなら具体的な状態をイメージして自分ごとにすることが可能だからです。さらに体重が増えたとしても未来の減量成功よりも今の甘いものを食べることが優先なのです。いわゆる目先の利益を優先させる現在志向バイアスです。そしてダイエット成功者に多いのが、数年経過してから再度減量をしないといけないときでも過去の成功体験にとらわれて健康行動にうつれないという特徴です。

 

もちろんこれらのことを乗り越えるための方法はいくつかありますが、人間の本質的特徴だと思ったほうが良いでしょう。

 

様々な論文が健康行動の難しさを発表しています。

遺伝子結果からがん発生予防が出来るとわかっても健康行動に人間はうつれない

個人リスクがどれだけ正確でも喫煙、運動習慣、減量、飲酒の健康行動は難しい

 

 


2.健康と医療情報3つの特徴

  • 社会的要因や背景に紐付かない医療情報は活用する価値が乏しい
  • 1名の健康情報価値はないが、集団化すると大きな価値に変わる
  • 手続き的煩雑さは馬鹿にできないくらい利活用に大きく影響する

小学生のテスト勉強を想像してみましょう。小学生の毎月の算数のテスト結果を親が見た場合、点数が最も重要です。時間があれば、どこが正しくて間違っているのかを見るでしょう。子供の勉強を隣ですべて見ていれば別ですが、一般的には点数・結果という成績をスナップショットで追いかけるわけです。そこから子供に勉強時間が足りないのか、授業を聞いていないのか推測するわけです。でも親も本人も気が付いていない可能性があるのです。その子が本当に勉強出来ないのは、授業中の黒板の字が見えなかったり、集中できる環境にないことが最大の問題であることを。また親がテスト全体の平均点や問題ごとの正誤率等まで把握出来たら子供へのアプローチは変わるかもしれません。その子供のテスト結果からわかることもありますが、集団化した情報は大きな価値をもっています。さらには、成績を上げたいがゆえに、勉強する前後で親にレポート、タスク一覧化といった勉強の方法論をやり続ければ当然、勉強がめんどくさくなってやらないでしょう。

 

人間の健康への影響は、遺伝的要因や生活習慣要因を超えて、社会的要因による影響が大きいことがわかっています。いわゆる社会的決定要因(SDH: Social Determinants of Health)です。その人のおかれた地域的政策不備、所得や社会的地位、社会支援ネットワーク、教育、ヘルスリテラシー等、多くの要因が影響しています。それらの情報なしで、病気になったデータだけを解析しても限界が出ます。本人が自分の健康や医療情報を使ってもある程度の価値は出ますが、実は一番価値が高いのは専門家がこのデータを活用して政策に活かしたり、公衆疫学的意義を見出すことで全体の豊かさが広がる点にあります。

 

 

 

健康行動の特徴踏まえたPHRの活かし方

私の考えるPHRの活用です。大前提は、健康データは個人の有するものであり、人類の発展のために活用されるべきだと思っています。その上で、PHRのデータを「誰が活用」して価値をもたらすのかは下記の通りです。

 

【結論】

PHRは、国や企業が活用して国民の健康に寄与するための使い方を優先させる

 

予防医療での健康行動の特徴をいくつかお示ししました。これらの特徴を乗り越えるためには、「個人がPHRを活用する」というのはどうしても繋がらないのです。劇的な制度上の変化や技術の革新があれば、違うのかも知れません。ただ現時点でのわたしの答えは、違うというものです。

 

個人ではなく、

・国が医療費増大を抑えるために
・企業がウェルネスに関心のある方々への価値を届けるために
であれば、しっくりくるのです。

PHRの活用では、専門家(政策者含む)が集団化情報を活用して大きな価値を創り、最終的に個人の益に返していくことが設計として一番良いと思います。そのためには、ワンプラットフォームにする必要があり、データ提供者とデータ活用者が複数存在して、人類の発展に寄与していくことが重要です。そのためのガイドラインづくりが、今回の一般社団法人PHR普及推進協議会で行っているものなのです。

 

PHR活用の具体的な例としては

  • 健康診断情報:特定健康診査に代表される健保側の健診結果情報と事業主側で情報を統合することで、デジタルとなったことで大きな効率化が見込める(既に動いている)。さらには転職時に雇入時健診の省略化、クリニックへの受診時に提供することで検査の効率化は企業や個人的な益としては良いでしょう。
  • 予防接種情報:新型コロナ感染によって世界が大きく変わっていく中で、従業員の健康を守るためにどのくらい感染リスクがオフィスや工場にあるのか知ることは意思決定として重要です。どの程度予防出来ているのか情報提供し、従業員体験を向上させることは今後加速するでしょう。
  • 社会的決定要因:国民栄養調査やその他、社会的背景を含めた情報と一元化し、医療・介護政策に活かすことでターゲット・セグメントごとに最適な施策が打て、さらにPDCAを回すことが可能となるでしょう。専門家はこれで様々な視点で分析、検証することが出来るでしょう
  • オープンプラットフォーム:個人同意や個人が特定されない中で健康情報や医療情報を売買することでマーケティングやプロダクト開発に活用する企業も出てくるでしょう。精度の悪いアンケート調査から開放されるかもしれません。それはまさに国民の皆さんがほしいと思う商品かもしれません。

 

 

最後に

PHRが大きな価値をもたらすためには、国が覚悟をもって大きな予算でこのインフラ事業を大きくしなければ、そもそも成功しません。インフラ事業は、最初から収益性が確保出来ないものであり、様々なステークホルダーをひとつにまとめていく強い求心力が必要になります。ガイドラインや通達だけで出来るものではなく、統合していくことを国としてやってほしいと思います。GoogleやMicrosoft, AmazonでさえもPHR事業から撤退をする経験をもっています。企業ではなく、国として一気に加速させることで国民の幸せがより高まると信じています。

 

 

こちらも確認してみてください。
国民・患者視点にたっったPHRの検討における留意事項(健康増進法施行規則)

 

 

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